迷子のお客さま

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 智和はうんと頷いた。沙苗は自分の横の何もない空間に体を向けた。多分これで、男の子と正面向き合って話せるはずだ、と思う。ちらと智和を見ると、智和は頷いた。沙苗はまた前を見て、結局迷子に話しかけるように優しく話しかけた。 「……僕、お名前は?」 「首を横に振ってる」  それから一呼吸おいて、智和は続けた。 「亡くなった時の衝撃で忘れたらしいわ」 「ひょっとして、じゃあ、家がどこかとかも覚えてない?」  智和は頷いた。これではどうしようもない。沙苗は頭を抱えた。 「なあ、うめっち、この子、お経あげて供養してあげたら成仏するとかない? なんならうちが施主になるから、頼むわ」 「供養はそりゃできるけど、だからといって成仏するとは限らへんで。法要やったら一発成仏なんてことできたら、今頃心霊スポットなんて全滅してるやろ」  一理ある。しかし、一理あったからといってなんの救いにもならない。 「ぼんさんのくせに、役立たず」  理不尽に罵倒して、沙苗は腕を組んだ。そして、見えない子どもがいるであろうあたりに視線をすえ、言い聞かせるようにゆっくりと口を開いた。 「ここはお店で、僕みたいな小さな子や、僕より小さな子も来はる。おば……お姉さんは」  普段から子どもたちに接しているときの癖で「おばさん」と言いそうになり、慌てて言い直した。ぷっと智和が吹き出す。そんな彼をじろりと睨み、沙苗はまたもとの何もない空間を向いた。     
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