迷子のお客さま

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「お姉さんは、そういう子らをびっくりさせたくあらへん。せやから、僕にはよそに行ってほしいんやけど」  ここまで言うと、沙苗は答えを待つかのように口をつぐんだ。智和もじっと黙っている。店の中はしんと静まり返り、クーラーから冷たい風が吹出す静かな音だけが響いていた。  やがて、少し離れた本棚から絵本が一冊ぱたりと落ちた。その音は静かな店内に大きく響き、思わず沙苗はびくっと体を震わせた。智和と顔を見合わせ、沙苗はゆっくりと立ち上がる。落ちていたのは、組み立て式の飛行機に乗って冒険に行く物語の絵本だった。沙苗はそれを拾い上げると、棚に戻さずに智和を見た。なんとなく、これが男の子からの返事のように思えたためだった。
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