迷子のお客さま

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「そういえば、あの子の話する前にあんた急に笑い出したよな。あれ、なんやったん?」  ああ、と智和は苦笑した。 「俺らが喧嘩していると思ったんか、本棚の影からあの子が急にびっくりした顔で、すごい勢いで飛び出してきたんや。喧嘩しちゃダメって言いながら」  想像すると、おかしさがこみ上げてきた。沙苗はこらえきれず、くすくすと笑う。それにつられたのか、智和もくすくすと笑い出した。  そのとき、店のドアベルがカランと鳴った。 「あっ、智和先生だー!」 「あら、智和先生こんにちは」  元気な子どもの声と、ちょっとよそ行き風の母親の声。寧心幼稚園の園児であった。 「あっ、翔ちゃんや。こんにちは。ええなあ、絵本買ってもらいにきたんか? あっ、先生わかったわ。翔ちゃん今月お誕生日やったやろ、お誕生日プレゼントやな?」 「すごーい! なんでわかったん? せやねん、プレゼントに好きな絵本一冊買うもらえるねん!」 「そりゃよかったなあ、ゆっくり選びや」  そうして智和は、じゃあ、と園児とその母親、沙苗に軽く挨拶して店を出て行った。
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