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思わず、「よ、よろしくお願いします!!」と大声で深々と頭を下げてしまって、ソフィーは顔が熱くなってきた。け、結婚相手に初めての挨拶って、こここれで良いの??
恐る恐る、顔を上げると、テーオドル侯爵は柔らかな笑顔でソフィーを見ていた。
「こんな素敵な女性をお嫁さんに頂けるなんて、これはご両親にお礼を言いに行かねばらないないな」
そう、言われてソフィーは、はた、と止まる。
「…申し訳ございません。両親は他界しておりまして…」
ソフィーの両親が亡くなっている事は、てっきり、結婚相手である侯爵はもうすでにご存知かと思っていた。
侯爵がかわされた契約書の中に、そういった記載はなかったのだろうか?
それとも、この書類上の結婚では、ソフィーの身の上はたいして重要ではなかったのだろうか。
………もしや、これは言ってはマズい情報なんだろうか?
頭の中で、あの紳士に渡された紙の文面をハイスピードで思い返してみたが、たぶん、おそらく、そういった事は書いていなかったはずだ。
そもそも、テーオドル侯爵に関しては、一言しか書いていなかったのだ。
”公はくだんの件に関してはまったく無関係であり、また、貴女から知らせることはあってはならない”
ソフィーの言葉が尻すぼみになり、侯爵はというと、少し驚いたような表情をしていた。
そして、柔らかい表情だった彼の眉が少し険しくなった事に、ソフィーはうつむいていたから気が付いていない。
しかし、それも一瞬で、
「それでは、一緒に、墓前にご挨拶に行こう」
そう、彼は言うと立ち上がった。「神父様にソフィーを貸してくれって頼まないとな」と後ろに控えていた長髪の男に言うと、また大股で歩き出した。
ソフィーもふんわりと引き寄せられ、侯爵の隣に並んで歩き出す。
(て、手を、つないでます…よ…)
それは大きくて、ごつごつしていて、ほんとうに、男の人の手、だった。
自分の手をすっぽりと包まれたのは、それが初めてで。
なにか、不思議な気分で、なんだかどこを見て歩いたらいいのか分からない。
「神父様、少しソフィーをお借りできないか」
テーオドル侯爵の申し出に、神父がダメと言うわけもなく、二つ返事の後、3人は連れ立って教会の外へ出た。
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