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「テーオドル侯爵…!?」
それまで憂いを帯びていたソフィーの碧い瞳が、途端にまん丸になったのを見て、紳士は苦笑した。
「ご存知ですか?」
「え?え、ええ。あの、テーオドル侯爵様、ですよね?」
「ええそうです。あの、侯爵様です」
テーオドル・フォン・ヴェステル侯爵。
由緒あるヴェステル公爵家の嫡男で、
王都のみならず、こんな地方の田舎の街でも彼の名前は知れわたっているほど、今のラ=デラ=チッタでは時の人だ。
大変な美男子で、かつ秀才で、武芸に秀で、芸術も嗜まわれる、という。
しかし、そんなことよりも何よりも、頻繁に民衆の口の端に上がるのは女癖の悪さ、だった。
それは、王都の女は遊びつくし、とうとう地方へ赴いているらしい、と実しやかに囁かれているほど。
しかし、
「…あの、失礼な事を申し上げるようで恐縮なのですが、あくまで聞いた噂、なんですが、侯爵様は、あの、第一王女の婚約者に強く望まれている、と…」
ソフィーが恐る恐る尋ねると、彼女の意に反して、紳士は厳しい顔つきになった。
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