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「よろしい。では、後日使者の者がお迎えに上がります。
ご準備をなさっていてください。それまでの注意すべき事柄はこちらに」
「はい。遠いところありがとうございました」
飾り気のない紙を受け取り、彼女が微笑むと、紳士はまた頭をふってため息をついた。それは彼の癖なのかもしれなかった。
「………今なら引き返せるでしょう。
……御心変わりはありませんか?」
ソフィーは微笑んだ。
「ありませんわ。」
紳士は小さく頭をさげ、立ち上がった。そして、シルクハットを深く被った。
ソフィーも立ち上がり、ドアを開けた。
彼女は外まで見送ろうとしたのだが、紳士は「一人で戻れますので、ここで結構」と足早に去っていってしまった。
そして、紳士の靴が石の床を鳴らす音が完全に聞こえなくなった時、ソフィーはほうっと一つ、大きく息を吐いた。
朝から、慌ただしい一日だった。
朝食の席での突然の来訪者。
見慣れぬ出で立ちのその人は、装飾の無い衣装ながらも、高貴さがにじみ出ていた。
しかし、初めは神父さんと話しをしていたから、まさか自分に用があるなんて思いもしなかったが。
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