act 1  瑠璃色のひとみ

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 夕食の後、ソフィーは神父様の所へ行った。  今日の紳士との話を報告しなくては、と思ったのだ。  書物の整理をしていた神父は、ソフィーが部屋に入ってきた事に気が付くと作業の手を止めた。  「あの、神父様、今日のグーゲルさんのお話の件なんですが…」  「…ええ。あの後、あの方から聞きました。テーオドル侯爵と結婚されるのですね」  おめでとう、と神父さんはソフィーの手を握った。それは力強い握手だった。  「貴女を花嫁に、と最初聞いた時は耳を疑いましたが、やはり女神様は我らを見守っていらっしゃる。   こんなありがたいお話しを頂いて、本来貴女がいるべき世界に戻れること、   ほんとうに、おめでとう。この上ない祝福ですよ、ソフィー」  うっすらと涙をたたえた神父を見て、ソフィーは胸がつまった。  「ほんとうに、信じられないくらいありがたいお話で…。   …いままで、本当にお世話になりました。   あの……、……。」  言葉が続かなかった。  神父がどこまであの紳士から聞いたか分からないが、こんなにも手放しで喜んでくれている、ということは、恐らく、契約上の結婚ということは知らないのだろう。  そして、それは彼に言うべきではない、ということもソフィーはわかっていた。  でも、それが、神父に嘘をついているような気持ちになってしまって、ソフィーは思わずうつむいてしまう。  と、大きな暖かい手が、ソフィーの肩に優しくのった。  「まあ、突然の事で、思うところもあるでしょう。   ゆっくり、貴女らしく、これからの生活の準備をしていきましょう。」  ね、と神父は暖かく笑った。ソフィーもつられるように笑顔になった。    …そうだ、これからが本当の人生の本番なのだ。  使者が来るのがいつになるか分からないが、準備をしなくてはならない。  心を乱している余裕なんかないのだ。  もう、自分で決めたのだから。  固い決意と、これからの不安と期待。  慎重に。後悔と失敗は許されない。  ……。  ”本来貴女がいるべき世界に戻れること、ほんとうに、おめでとう。”  心の隅に残ってしまった神父の言葉に耳をふさぐように、ソフィーはベッドの中で丸くなった。  
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