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切れ長の双眸が呂翔を見上げていた。男は、少年の肩を優しく抱き寄せた。
「もちろんだ」
「だが呂翔、父上は、我が祖父よりも幾分早く天寿を終えられたな」
そこで、呂翔は一度押し黙った。少年の瞳は容赦なく男の目を突き上げている。すると彼に代わって、二人の後方を歩いていた短身の老人が言葉を継いだ。
「優秀な若君がいらっしゃるので、甲王は先にお帰りになったのですよ。王は、天の庭が恋しかったのでしょう」
「伯茲(はくじ)、お前も天の庭が恋しいか」
伯茲と呼ばれた老人は短く太い指で髯を撫でながら、ふむ、と小さく呟いた。
「いえ若君。私は元々地の物ですから、この地上と若君の方がずっと恋しゅうございます。まあ大分年を食っておりますから、そろそろお呼びがかかるかもしれませんが。大丈夫、私一人が去りましても、我が愚息が代わって若君にお仕え致しますし、何よりここにいる呂翔も璽庵(じあん)も比霍(ひかく)も、あと五十年は生きるでしょう。若君がご成人なさり、政をご自分のものになさる間くらいはお側にいられます」
自分たちの名があがったからか、前方を歩いていた二人も足を止めて振り返った。
少年の目が、今度は前方の大男に向いた。
「比霍、お前は父上が天の庭に行って悲しいか?なぜ悲しいのだ?」
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