序章 前

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 辛(しん)という国が、世の中を支配していた時代の物語である。その頃人々は、天帝と呼ばれる神――正確にはその代理人によって統治されていた。  辛王朝の王とは最高位の巫者であり、神の言葉を下ろすことの出来る唯一人であった。すなわち辛では王は自ら政治を行うものではなく、神託を受けてそれを代行するものだったのである。王の下には四聖と呼ばれる司祭達が連なり、彼らもまた地の神の声を聞くことのできる術者達だった。王と四聖は神々の声に従って無私の精神で民を慰撫することによって、神々の代理人としての力を授かるとされていた。辛国の王と聖人達は通常の人間の三倍近い寿命を生き、その長い生涯の中で、力を扱い国を治めるための方策を次代へと渡していった。当時、人は死後土に還るとされていたが、神の力を与り長寿を生き抜いた者は天の庭に還ると信じられていた。     
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