6.人形 その2

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6.人形 その2

次男がまた人形を持ち帰ってきた。今度は、小さな西洋人形だ。 また事故現場から拾ってきたのではないかと疑ったけれど、今回は買ってきたものらしい。 悲しいかな、『曰くつき』ではあったのだけれど。 とはいえ、害のあるものではないと次男は言った。成程、確かにその人形はとても大人しかった。流石に目が動く瞬間を見てしまった時は肝が冷えたが。 人形は、どうやら長男のことが気に入ったみたいだった。彼女は気付くと長男の傍に居て、兄に熱い視線を送っていた。 当の長男は最初こそビビっていたけれど、元々順応力の高い人なので、すぐに慣れてしまい、そのうち人形のことなど気にしなくなっていた。人に懐かれると調子に乗るタイプなので、むしろ歓迎していたようにも思う。 そんな長男と人形のことを、僕達兄弟は半分微笑ましく、半分呆れながら見守っていた。 ただ一人を、除いては。 その日の夜、次男は黒いポリ袋を片手に、どこかへ出かけた。 こんな時間にどこへ行くのか訊いたけれど、「多少騒いでも迷惑にならないところへ」とだけ返された。 それでもなお食い下がろうとしたけれど、三男に止められたので、大人しく先に眠ることにした。 「・・・おはよう、ハル」 翌朝、先に朝食を食べ終わって家を出ようとしていると、次男が起きてきた。 一体何時に帰ってきたのかはわからないけれど、寝不足なのか、いつも以上に寝起きの目付きが鋭い。 「おはよう、冬兄さん。今日は早いね」 「今日は一限からなんだ・・・。夏樹の方は、まだ寝てるよ・・・。 ・・・ああそうだ、ハル。これ、頼む」 まだ半分寝ぼけながらも、次男はゴミ袋を押し付けてきた。 「ゴミ出しね、わかった。いってきまーす」 「ん、いってらっしゃい」 欠伸を噛み殺しながらもヒラヒラと手を振り、次男はリビングの方へと消えていった。僕もまた、そんな兄の姿を見送り家を出る。 そして意気揚々とゴミ捨て場に向かい、少し乱暴にそれを放り投げた。 ――と、少し雑に扱い過ぎたのか、ゴミ袋の結び目が解けてしまった。 「あ、いっけね」 結び直そうと、慌ててゴミ袋の元へ駆け寄る。 その時、僕はあるものに気付き、戦慄した。 解けた結び目の隙間から、見えていたものは。 ビッシリと五寸釘が打ち込まれた、 あの、西洋人形だった。
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