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翌日、僕は寝不足の頭を抱えながら、次男にあの人形はどこで買ったのか尋ねた。すると、次男は驚くべきことを口にした。
「ああ、あの人形はな。買ったんじゃなくて、拾ったんだ」
「拾った? どこで?」
「近所の、“事故現場”で」
──次男が言うには、昨日、偶然交通事故の現場に居合わせたらしい。
車に轢かれたのはまだ幼い少女だった。その少女が救急車に乗せられている所を、次男は他の野次馬と共に眺めていたらしい。
と──そこで次男は、あるものを見つけた。
それは、事故に遭った女の子が持っていたと思われる人形だった。
次男はそれを──持ち帰って来たのだ。
「何でそんなものを持ってきたの?」
思わず声を荒げると、次男は心底不思議そうに、こう言った。
「だって、勿体ないだろう。どうせ、」
“あれはもう、助からない。”
次男が弄んでいる、昨日までは赤かったはずのその人形の服は、
どす黒い色へと、姿を変えていた。
その後、僕達兄弟はどうにか次男を説得し、人形を元の場所に戻してきてもらった。
次男は酷く悲しそうな顔をしていたが、家に帰ってきてからは、まるで何事も無かったかのように平然としていた。
僕らもまた慣れたもので、何日かすればあの人形のことはすっかりと忘れてしまった。
何も気にしない。
何も気に病まない。
これが僕達の、日常なのだから。
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