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その夜、残念ながら僕はまたあの夢を見た。
夢の内容はいつもと変わらない。赤い景色、赤いまま変わらない信号機、灰色の人々、烏の鳴き声。
だけど、一つだけいつもと違うことがあった。
僕のやや後方に、次男が居たのだ。
「どうして居るの」と訊いたが、次男は僕を安心させるようににっこりと笑うと、首を横に振り、再び前を見据えた。
釈然としないまま、僕もつられて前を見やる。
やがて──トラックがやってきた。
──どうしよう。
この夢に慣れ始めている僕も、流石に兄の目の前で死ぬのは嫌だ。しかし、トラックはすぐそこまで来ている。
逃げることは、できない。
覚悟を決めて、襲ってくるであろう衝撃に体を構えたその時──
ドン、と鈍い音がした。
それと共に横断歩道に躍り出たのは、僕ではなく。
子供くらいの大きさの、灰色の人影。
「──え、」
そう呟いたのは、僕だったのか、それとも人影の方だったのか。
一拍置いて、小さな影はトラックにぶち当たった。あの衝突音と甲高い悲鳴が混ざり合い、僕は耳を塞いでうずくまる。
どうして。
トラックにはねられるのは、僕のはずなのに。
困惑したまま、僕はふと、後方に居る次男を見る。
両腕を前に突き出した兄と、目が合った。
満足そうな表情を浮かべていた次男は、僕にあることを告げると、またにっこりと微笑んだ。
僕はそれに応える間もなく、意識を手放して。
この日、僕は死ななかった。
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