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3.目
一時期、いつもは楽天家な長男が、酷く元気の無い時があった。
丁度その頃、長男には彼女が居た。
意外にもモテる兄の何番目かの彼女だったのだけれど、この彼女はかなり嫉妬深く、束縛がきつかったらしい。長男はよく、憂鬱そうにしていた。
昔からこの兄は、変なのに好かれやすい。
だけど、長男の憂鬱の原因は、実はこれだけではなかった。
何でも──四六時中、視線を感じるのだという。
ストーカーの可能性もあったが、家の中にまで視線を感じるというのはどこかおかしい。
そうして原因のわからないまま、長男はいつも神経質そうに辺りを見渡しては、溜め息を吐く毎日を送っていた。
ただ、不思議だったのは。
長男が辺りを見渡す度、関係の無い次男まで、キョロキョロとしていたことだった。
その日、長男はソファーで昼寝をしていたのだが、やがてうなされ始めた。
視線を感じると言い始めてから、可哀想に、ろくに睡眠もとれないらしい。
また、視線を感じているのだろうか。なんとかしてあげたくて三男と顔を見合わせるのは良いけれど、何も解決策が浮かばない。
その時、
「見つけた」
いつものようにキョロキョロしていた次男が、唐突にそう呟いた。
何が、と聞く僕達を無視して、次男はツカツカと長男の寝ているソファーに近付く。
そして、ソファーの隙間から、何かを取り出した。
次男の手に握られていたもの。
それは、人間の目玉だった。
「──あのブタが」
次男はゾッとするような低音で口汚くののしると、その目玉を、力一杯握り潰した。
グシャ、という嫌な音と共に、生臭い臭いが辺りに充満した。
次男はスッキリした顔で、目玉の残骸を手にしたまま、ライターを持って部屋を出て行った。
ああ、燃やすんだなと思った。
完全に、この世から消えるように。
僕と三男は、あまりの衝撃に暫く動けずにいた。
結論から言うと、長男は彼女と別れた。
というより、別れざるを得なくなった。
彼女が入院してしまったのだ。
──彼女の目は、どういう訳か、片方が潰れてしまったらしい。
以来、長男が視線に悩まされることは無くなった。
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