カマキリ女のしあわせ

4/10
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
ミラーの背面にある蝶の文様が眼に映る。 “このカマキリ女が” 忌々しい言葉が脳裡を駆けめぐった。 (あいつの言うとおり、わたしはカマキリ女よ) 幼かったころの記憶がむくむくと蘇る。 ──あれは小学校低学年のときだった。 家の裏庭にある原っぱで、翔んでいるアゲハ蝶を追いかけていた。 すると草むらのなかに、大きなカマキリを見つけた。 それは腹がぼってとしたカマキリで、何やら獲物を食べているようだ。 (いったい何かしら?) わたしはそっと覗くと、カマキリが食べているものの正体に気づいた。 「ひいっ!」 思わず悲鳴がもれた。 なんとカマキリが貪り食っていたのは、同類の小さなカマキリであった。 モシャモシャと頭から食べていたカマキリが、覗きこんでいるわたしに気づいたように眼を向けた。 カマキリの無機質な眼がおぞましくて、心の底から震えあがった。 その邪悪な眼を怖れるあまり、石を落としてカマキリを潰してしまった。 あとで知ったことだが、メスのカマキリは交尾をしたオスを食うというのだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!