10人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
ミラーの背面にある蝶の文様が眼に映る。
“このカマキリ女が”
忌々しい言葉が脳裡を駆けめぐった。
(あいつの言うとおり、わたしはカマキリ女よ)
幼かったころの記憶がむくむくと蘇る。
──あれは小学校低学年のときだった。
家の裏庭にある原っぱで、翔んでいるアゲハ蝶を追いかけていた。
すると草むらのなかに、大きなカマキリを見つけた。
それは腹がぼってとしたカマキリで、何やら獲物を食べているようだ。
(いったい何かしら?)
わたしはそっと覗くと、カマキリが食べているものの正体に気づいた。
「ひいっ!」
思わず悲鳴がもれた。
なんとカマキリが貪り食っていたのは、同類の小さなカマキリであった。
モシャモシャと頭から食べていたカマキリが、覗きこんでいるわたしに気づいたように眼を向けた。
カマキリの無機質な眼がおぞましくて、心の底から震えあがった。
その邪悪な眼を怖れるあまり、石を落としてカマキリを潰してしまった。
あとで知ったことだが、メスのカマキリは交尾をしたオスを食うというのだ。
最初のコメントを投稿しよう!