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プロローグ 妖狐娘、発つ
妖怪にとっても、人口減少というのは深刻な問題だ。
物が化けて生まれる付喪神ならいざ知らず、天狗や河童、妖狐といった動物に近い妖怪は、子を産んで子孫を残す必要がある。つまり、彼らには絶滅という概念が存在するのである。
絶滅危惧種は人間が活動範囲を広げるのに伴って、棲みかを追われてしまっているのだとよく言われるが、それは妖怪も例外ではない。
京都は北山の奥深く、とある妖狐の限界集落から、一人の娘が出て行くことになったのも、まさしくそのような問題があったからであった。
「いいか。このブレスレットには、私たち一族の力が込められておる。
これを付けている限り、お前はどんな霊力を持った人間や妖怪にも、妖狐だということを見破られることはないじゃろう。
ただし、このブレスレットをつけている間は、お前は妖術を使うことができない。覚えておきなさい」
「うん。ありがとう。おじいちゃん」
三角形の黄色い耳と、ふわふわの尻尾がついた妖狐娘。「北山 小稲」は、にっこり笑って白い数珠のような可愛らしいブレスレットを受け取った。
周りにいる二十人ほどの妖狐たちはみんな古びた和服を着ているが、小稲だけは都会っぽい洋服に身を包み、片手にはスーツケースのハンドルが握られている。
彼女がブレスレットに手を通すと、狐耳と尻尾はたちまちにして消えて見えなくなった。
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