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「頼むよ小稲。北山妖狐の未来はお前に掛かっている。
何とか人間の男をものにして、一族の血筋を……」
「ちょっと、お父さん! 気が早いってば」
小稲の父親の腰を、母親が尻尾で引っぱたいて言った。
小稲の祖父は北山妖狐の族長であり、父親はいずれその地位を引き継ぐ立場である。父親は自分の娘の可愛さもさることながら、やはり一族の未来を考えずにはいられないようだ。
「あのねお父さん。小稲はまだまだ世間知らずなんだから、まずは『恋活』をして、人間というものを良く知ってもらってからじゃないと、危なっかしくてしょうがないの。
何て言ったって、妖狐と人間との結婚には恐ろしいリスクがあるんだから!」
「ああ。そうだったな。すまん」
母親に牙を剥かれ、父親は耳を伏せて謝った。
「小稲。そのリスクについては覚えておるか?」
祖父が小稲に優しく笑いかけて問う。小稲はこくりと頷いて、今日まで散々言い聞かされてきた言葉をもう一度繰り返した。
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