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「『妖狐は人間よりも霊的な存在だから、子を宿すためには人の愛情さえあれば十分。
逆に人間は愛情がなくても子を宿すことがあるけど、「愛の証」のない体の関係は私たちにとっては命取り』……でしょ?」
「よろしい」
祖父が微笑む。
「小稲。これが下宿先の住所。それから、大学入学の手続き書類」
父親が一枚のメモと茶封筒を小稲に手渡した。
「大学に通うからには、恋愛だけじゃなく、ちゃんと真面目に勉強もしてこいよ。
歴史学科なら、我々が今までどう人間と交流して来たかを学ぶ機会もあるだろうからな」
「じゃあね。小稲。ちゃんと手紙を書いて送るのよ」
母親が涙ぐんで小稲を抱きしめる。
「じゃあ、行ってきます!」
小稲は一族の者たちに手を振ると、スーツケースを引いて歩き出した。
「頑張れよー!」
「いい人間に出会ってねー!」
「チャラい烏天狗に絡まれたりするなよー」
「稲荷狐を見つけたら玉の輿狙えよー」
みんなが口々に声を上げて手を振る。
小稲は手を下ろして彼らに背を向けると、ほんの少しだけ、ぐすんと鼻を鳴らした。
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