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第一章 見覚えのない看板
駅前の再開発で見慣れた風景が季節の移ろいのように次第に変わっていく。
真っ白だった街路樹はいくつもの若い緑の葉を纏い、街中を通り抜ける風もいつしか西風と変わった頃、松高勇一は見覚えのない灰色の小さな看板を見つけてふと足を止めた。
そして、一度上空に顔を向けた後、また視線を足下に落としてその看板をじっと見つめていた。
看板には、墨汁で書いたかのような薄い黒色の文字が灰色に滲んでいる。
普段なら気にも止まらないで見過ごすであろう地味な看板なのだが、たまたま今はその傍らに僕は立ち止まっているのだ。
僕は再度上空を見た。
「ここの二階ってことだよな」
看板の右下の隅っこに「二階へ」と書いてある。それにしても随分と小さな文字だ。
再開発に取り残されそうなくたびれた外観の四階建ての雑居ビル。
看板に書かれた「ビニール本屋 曼珠」という名前も
、いつかテレビで観た古い映画の中の場面のようで、目前の雑居ビルと相まって、今となっては場違いな雰囲気を醸し出している一角のようでもあった。
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