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だいすきだから言えない
ふわりと優しく、それから、ぎゅっとつよく、抱き締められた。君のにおい。海のにおい。私はこらえきれなくなって、君の背中にほろほろと気持ちをこぼす。こんな風にしたかったわけじゃないのに。
「ごめん……」
そう、つぶやいたら、
「不安にさせてごめん」
そんな言葉が、返ってきた。驚いて顔をあげたら、君が微笑んだ。
「何であやまんの」
「泣かせてごめんね」
「ちがうの……泣いちゃってごめん」
「ん。ほら、座ろ」
砂浜に腰を下ろすと、じんわりと夏の暑さが伝わってきた。君が私の肩を抱いた。
「昨日、変なこと言ったから」
やめたい、と。
それは、サークルでいろいろあったその日の愚痴の延長。人に弱音なんて滅多にこぼさない君が私にだけは甘えてくれるから、私はいつだって君の味方でいたくて。君が悩んでるときは私がつよくありたい。なのにその言葉に、動揺して、頭がいっぱいになって、でもなかないようにここまてずっと、我慢してきたんだ。だけど、君が優しいから。
「君の夢が叶ってほしいから、寂しいなんて理由で引き留めたりは絶対にしないけど、でも、君がもしやめちゃったら、私たちの関係はどう変わっちゃうのかなって……」
また涙が溢れる。君が笑って、私の涙を拭った。そのまま頬に手を添えて、それから優しくキスをくれた。
「ばか。なんも変わるわけないでしょ。」
「ほんと?」
「あたりまえだよ」
「うん。……ごめん」
「何が?」
「泣いちゃったから」
「いや……あはは」
「なんで笑うの!」
「ごめんごめん、だって正直……萌えたから」
「ハァ?」
「離れたくない、って、泣いてくれたんでしょ?そんなん、めちゃくちゃかわいいじゃん。」
にやにやする君に、膨れっ面の私。そしたら君は私の顔を両手で包み込んで、そのまま鼻の頭をぶつけてきた。
「なに、にやにやして!」
「かわいい」
「もう!」
「素直じゃない口は塞ぐ」
少し強引なキスと、夏の暑さにクラクラした。
「それにまだ、やめないし」
「……ほんと?」
聞き返す声が上擦った。だって、本当は君にいなくなってほしくなかった。君がいるからがんばれてるんだもん。さみしいから、やめないで。言わないけど、じゃましたくないけど、ほんとは。
「ほんと。もうしばらくいる」
思わず君を、ぎゅーっと抱き締めた。
「……だいすき」
「だいすきだよ」
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