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「ここ、いいですね」
私は不動産屋で紹介されたいくつかの物件の中から、ひとつを指差しました。
そこは元々レストランを経営していたらしく、冷蔵庫や食器などは残されたままの居抜き物件でした。
二階が住宅になっているため、その当時私が住んでいたマンションの部屋を引き払って上に住めば、お釣りが来るくらいの格安物件だったのです。
店舗は多少時代を感じましたが、リフォームすれば劇的に変化しそうな雰囲気を漂わせていました。
「ここですか・・・・・・」不動産屋の社員の表情が急に曇ってしまいました。
「駄目ですか?」私は事故物件という言葉を使わずに、さぐりを入れました。
「良い物件だと思いますよ。でも今までここでお店を経営してきた人はみんな失敗しているんです。住宅としてならオススメなんですけど、店をやるのならちょっと・・・・・・」
「人が死んでいるんですか?」
「いいえ。建物の中で人が死んだことは一度もないです。安心して下さい」
「なら平気です。今住んでいるマンションの家賃で、店舗と住居の両方を手に入れられるなら最高です。ここに決めました」
私はそう言うと、半ば強引に契約する方向に話を進めたのでした。
喫茶店を開くのが子供の頃からの夢でした。
会社で働いている時も、休日になれば街中の不動産に足しげく通い、自分好みの物件をずっと探してきました。
そしてようやく、それを見つけることができたのです。
私はすぐに会社を辞めて、第二の人生をスタートさせたのです。
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