ジコ物件

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 少しだけ沈黙を挟んで、私は気になっていたことを訊ねました。 「前にここで店をやっていた人は、どうして駄目だったんでしょうね? いい店なのに」 「・・・・・・」東さんは手に持っていた小説にしおりを挟んで、テーブルにそっと置きました。 「マズイこと、聞いてしまいましたか?」私は東さんの険しい顔を見て、動揺しました。 「僕はコーヒーのことは何もわからないから、アドバイスはできないけど、1つだけ教えられることがあるよ」 「・・・・・・なんですか?」 「裏庭にある木を切りなさい。そうすれば長く店を続けられると思う」 「え・・・・・・どうしてですか?」 「君から数えて、何代前だろう? 以前ここでハンバーグ屋を経営していた人がいたんだ。店は赤字続きで、結局その人は自殺してしまったんだよ」 「自殺?」私はカウンターから身を乗り出しました。 「裏庭の木で首を吊ったのさ。その時、死体にカラスが群がってきたんだ。不思議なことに、その次に経営した人も、またあの木で自殺。発見された時は、カラスに食われた後だったよ」 「・・・・・・」 「だから私はその後、ここで店を始める人に毎回伝えているんだ。あの呪われた木を切りなさいと。また悲劇が繰り返されたら嫌だからね。早晩この事は君に伝えようと思っていたんだ」 「・・・・・・」私は気持ちが沈み込んでしまいました。 「僕からこういう話をすると、今までの人はみんな嫌な顔をしたんだ。気味の悪いジジイだなって感じでね。結局、みんな言うことを聞かなかった。今回は違うことを祈るよ」  そう言うと、東さんはお金を払って、店を出ていくのでした。
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