あの時の海は、きっと青かった

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 ぼくは優が好きだ。今ぼくの隣にいる、優。  涙が星空をにじませた。  たくさんの思い出が今のぼくを形作ってくれた。それはきっと優にとっても同じだろう。そんなかけがえのない全ての思い出を乗せて、ぼくは言う。 「別れよう」  頬を雫が伝った。 「……だと思った」  優が湿った声で言った。 「もしよかったら、理由を教えてくれる?」  もしよかったら、と付け加えるところが彼女の気づかいだ。 「ぼくは……君の枷になりたくない」  後半は嗚咽交じり。ぼくの声は情けなく裏返ってしまった。  彼女は留学が決まっていた。四月からアメリカに渡り、語学学校に通う。九月からは晴れて大学生。  優はこれから学びたいことを存分に学ぶのだろう。新しい環境で苦労もするだろう。たくさんの新しい出会いもあるだろう。辛いことがあっても乗り越えていかないといけないし、楽しむべきことは存分に楽しんで欲しい。  でも、優の新しい世界の中にぼくはいない。  優がもしぼくを必要とすることがあっても、ぼくは近くにいることすらできない。それどころか、ぼくの存在がこれから広い世界に羽ばたこうとしている優の邪魔になるかもしれない。  だったら、  ぼくは優が好きだから、  ぼくは君の彼氏でいてはいけない。
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