第3章 失われたもの

55/99
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/1285ページ
「ヌマクラぁ!」 僕の叫びは、続いて伸びてきた触手の衝撃で打ち消された。 砂を突き破って垂直に伸びる硬質な鎖は、僕のブーツの底を撫でて天を突く。 「くそ……!」 次弾装填、狙いを定めようとした足元から再び異様な揺れ。 鎖は風になびくように不規則に揺れながら、次第に僕の回りを取り囲んでいく。 掌から汗が吹き出して、銃をうまく握れない。 死んだ? まさか。 ピンチの時はイブがいる。 あの魔法なら、絶対に死なない。 死なないはずだ。 「イブ……!」 バランスを崩した体が、前に(かし)ぐ。 急いで体勢を整えようとして踏み出した足が空回りをして。 「え、」 いつの間にか、流砂の中まで移動していた。 触手が、僕の進行方向を誘導していたんだ。 見下ろすと、目の前には巨大な口があった。 口の中は暗くて良く見えない。 三角形の歯は外皮と同じ鉛色をしていて、どこか無機質だった。
/1285ページ

最初のコメントを投稿しよう!