袖香る少将 一

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 たちの悪い公達だと、酔った勢いで屋敷の使用人に手を出したりする。  そして大概、屋敷の主人もそれを黙認する。使用人の身体を自由にすることも主人の権限、そして客人へのもてなしの一環と考えているのだ。  彼らは自分たちに雇われている下人や水仕女など、最初から同じ人間とも思っていない。    ……みんなには、宴席にはできるだけ近づかないように言わなくちゃ。特に年端もいかない女童たちは、屋敷の北側に隠れているようにと。  敷地の北側は鬼門にあたり、通常、台所や風呂など他人の目に触れさせたくない下世話なものを集めて置く場所とされる。  そんなところにまでのこのこやってくるような公達は、さすがに少ないだろう。  それでも今夜は、屋敷の使用人たちは宴が終わるまで寝ることも許されず、こき使われることになるのだろうと、楓子は重たくため息をついた。  だが峯子は、そのため息を別の意味に捉えたらしい。 「なぁに、あんたも宴に出たいの?」  まさか、と楓子が首を振る前に、峯子はけらけらとさもおかしそうに笑った。
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