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「な……、なによ、その言いぐさは! わたしが間違ってるとでも言うの!? あんたなんか、お父さまとお母さまのお情けにすがっているだけの孤児のくせに!」
きんきんと頭に突き刺さるような甲高い声で、峯子はわめき散らした。
その高慢な顔を思いきりひっぱたいてやれたら、どれほど気持ちいいだろう。
だが、現実に相手を平手打ちする権限を持っているのは、峯子だけなのだ。
……また叩かれるかもしれない。
楓子は覚悟した。
けれど、けして峯子に許しを乞うたりはしない。自分は、なにも悪いこと、間違ったことは言っていないのだから。
どんなに理不尽な扱いを受けたとしても、そこから逃げるため、峯子に媚びたりへつらったり、しない。暴力を振るわれたって、自分の真実を曲げたりしない。
それだけが、楓子を支えるたったひとつ誇りだった。
けれどその時、
「峯子、峯子や! 中将さまへのお返事はまだなの!? 文使いをいつまで待たせておくつもり!?」
簀(すのこ)の向こうから、峯子を呼ぶ声がした。
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