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いずちとも 飛びゆく雁はよかれども
雲居に立ちぬ 名を惜しむかな
「見ろよ、良成(よしなり)。小癪な返事をよこしてきたぞ」
容赦なく突き返された手紙を広げ、明衡は満足げに笑った。
――どこへでも飛んでいける雁のようなあなたは、どんなうわさが立とうともかまわないのでしょうが、私は自分の名がくだらないうわさにならないよう、身を慎んでおりますの――
「別の紙を用意せずに、わざわざ俺の書いた手紙の裏に書いて突っ返してくるなんて、またずいぶんと小憎らしいことをしてくれる。ここまでやられたら、逆にこっちももう黙ってられなくなるじゃないか」
「はあ、そういうものですか」
明衡のかたわらに控える良成は、明衡の乳母子(めのとご)だ。
良成の母が明衡の乳母(めのと)だったため、良成は明衡と片時も離れず育ってきた。成人した今は、腹心の友、股肱之臣として、実の兄弟以上に強い絆で結ばれている――と、信じている。
だがそれでも、このやんちゃで少々ひねくれ者の若君の気性を完全に飲み込んでいるとは言い難い。
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