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「四条権大納言の二の姫からのご返歌でしょう? いくら美人か知りませんが、またずいぶんと気位が高いというか、可愛げのない返事をよこしたものですね」
「そういう女を強引に口説き落として、骨の髄まで惚れさせるのがおもしろいんじゃないか。それに――」
見ろ、と明衡はもう一枚の手紙を取り出した。
少しくすんだ藤色に染められた薄様には、有名な薄墨桜の古歌を引用した哀悼の和歌が記されている。
「先月、母上の飼っていた猫が死んだ時に、権大納言の北の方がよこしたおくやみの歌だ」
「ああ、あの女院(にょういん)さまからいただいた唐猫(からねこ)ですか。やはりご拝領猫ですから、権大納言家でも気を遣ってくださったのですね。人間並みにおくやみをくださるとは……」
「猫の仔細なんかどうでもいい。この二通をよく見比べてみろ」
明衡がかざした二枚の薄様の筆跡は酷似していた。あきらかに同一人物によるものだ。
「和歌の代作なんて良くある話だ。だが、たかが貴族の屋敷に仕える女房の分際で、この俺にこんな小憎らしいことを言ってくるんだぞ。見過ごせるわけがないだろう」
良成は首をかしげた。
「ですが、和歌を詠んだのは女房でも、それはあくまで姫君のお気持ちを代弁しただけなのでは……」
「いや、それはない」
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