袖香る少将 一

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 そうやって出入り口の妻戸をふさがれると、狭い楓子の部屋は風どころか外の光もあまり入らなくなってしまうのだが、当の姫君はそんなことはまったく気にも留めない様子だ。  青緑に目も覚めるような鮮やかな紅色の衣をかさねた紅菊襲(くれないぎくのかさね)のはなやかな小袿(こうちき)に、濃き色と呼ばれる蘇芳色の袴。濃き色の袴は、未婚の女性が身に着けると定められているものだ。  輝くような化粧も毛ほどのくずれもなく、毎日女童(めのわらわ)がふたりがかりで梳きあげる黒髪はつややかに背へ流れ、身の丈に余る。  当代一の美女とうわさの高い、四条権大納言藤原忠友(ふじわらのただとも)卿の二の姫、峯子(みねこ)姫だ。
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