袖香る少将 一

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 四条権大納言は、同じ藤原氏の古老たちに上をふさがれ、出世も権大納言で頭打ちとなっている。  権大納言の「権」とは、仮の、臨時の、という意味だ。朝廷に急務があり、中枢の人数が足りない時にこの役職が設けられた。が、のちには出世を望む人数に対して役職の数が足りない時にも、設けられるようになった。  出世街道から外れた、とまでは言わないが、まあ、ちょっと足踏みしている者の地位だ。    だが忠友卿は、北の方とのあいだに生まれた三の姫を、東宮女御として入内させている。  この三の姫がうまく男皇子(おとこみこ)を産み、その子が至高の冠をいただいた時には、廟堂は帝の外祖父となる彼の天下となるはずだった。  もっとも肝心の東宮はまだ御年十一才、くわえて当代の帝も心身共にご壮健で、御代替わりは当分ありそうにないのだが。
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