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「お返しの歌を詠んで。早くしなさいよ。文使い(ふみつかい)を待たせてるんだから!」
峯子は腕を組んでふんぞり返り、きんきんと頭に響く声をはりあげた。
文使いとは、手紙を運ぶ使者のこと。すべての手紙は、こうして人の手から手へと渡されるのだ。
「わかりました」
楓子は古びた文机(ふづくえ)に向かい、細筆を手に取った。
この机が室内にあるほぼ唯一の調度と言っていい。女性の部屋にはつきものの、几帳(きちょう)や屏風もない。
「わかってると思うけど、お歌をくださったのは宰相中将藤原基実(ふじわらのもとざね)さまよ。太政大臣藤原義基(よしもと)さまのご子息の」
峯子は肩をそびやかし、いかにも自慢げに言った。
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