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素っ気ない態度に峯子は一瞬かちんときたようだが、すぐに勝ち誇った笑みを浮かべ、楓子を見下ろした。
楓子の擦り切れた袿や色褪せた袴をことさらじろじろと眺め、わざとらしい猫なで声で言う。
「そうよねぇ。あんたには関係ない話だったわね。あんたは婿取りどころか、まともに人付き合いさえできなかったんだもの! なぁんて可哀そうなのかしら。さみしいわよねえ!」
おほほほほ、と、甲高い笑い声が、薄暗い小部屋に響き渡った。
嘲笑う峯子に、楓子は強く唇をかみしめた。
……こんなことは、いつものこと。このくらいの嫌がらせでいちいち心を痛めていたら、身が持たないわ。
返歌の代作など女童でも使いにすればすぐに言いつけられるのに、姫君がわざわざ自分で渡殿(わたどの)の端にある楓子の部屋まで出向いてきたのも、本当はこうやって楓子を嘲笑いたいからなのだ。
峯子の母――権大納言の正妻であり、この屋敷では「北の方」と呼ばれる方子(まさこ)など、楓子の顔を見るのすら嫌がっている。
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