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「羨ましい? あらごめんなさいねえ。ほんと、あんたってお気の毒。親の罪で一生、まともな殿方には縁がないんですものねえ。それとも母親に倣って、そこらの下人か破戒坊主とでも通じてみる!?」
楓子は唇を咬み、ただじっと怺えた。
いつものこと、いつものことと懸命に自分に言い聞かせる。
が、
「あら……。なにかへんね」
峯子があたりを見回した。くんくんと鼻を鳴らし、
「何か良い匂いがするんじゃなくて? あんたまさか、香なんか焚いてるの?」
「えっ!?」
楓子は息を飲んだ。
少将の扇に残っていた薫りが、今もまだ室内にかすかに漂っているのだ。
「そんな、まさか……。姫君のお気のせいでしょう」
……扇――! 少将さまの扇は!?
縫いかけの生地の下にあった扇を、楓子は峯子に見つからないようそっと自分の袿の下に隠した。
その瞬間、お付きの女房と目があってしまった。
……見つかった!?
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