袖香る少将 四

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 どのくらいそうやって、針の動きに神経を集中させていただろう。  格子の外はすっかり暗くなり、虫の音が淋しげに響いている。  秋の夜は長い。  ふと気づくと、その虫の音がぴたりと止んでいた。  ほとほと、ほとほと……と、格子を叩く音がする。  楓子は顔をあげた。  誰、とは問わなかった。  さやかな秋の夜風が運ぶこの薫りが、訪問者の名を教えてくれる。 「ここを開けてくれ」  格子の向こうで少将明衡が言った。 「どうしてもそなたに確かめてもらいたいものがあるのだ。頼む、この格子を開けてほしい」 「少将さま?」  声の様子が昨夜とまるで違う。ひどく真剣で、楓子の胸に突き刺さるようだ。  楓子は一瞬ためらったが、すぐに意を決し、格子に手を伸ばした。  持ち上げた格子の隙間から、明衡の横顔が見える。  十六夜の月明かりに照らされたその表情はどこか険しく、恋に浮かれ騒ぐ好き者の印象など微塵もなかった。
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