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この四条大納言邸の人々にどれほど嘲られようと、罵られようと、楓子はじっと耐えてきた。耐えることができた。
けれど明衡に軽侮されることだけは、どうしても耐えられない。
どうしてこんなことを思うのだろう。今までずっと、ひとりぽっちで平気だったのに。
この男性と二度と逢えなくなるかもしれないと思うと、息もできなくなるほど苦しい。わずかに歌を交わし、言葉を交わしただけの人なのに。
……この方に疎まれ、嫌われてしまったら。わたしは、わたしは――!
蔀戸の内と外で、ふたりは互いに言葉をなくしたまま、ただじっと見つめ合うしかなかった。
だがその時、
「あそこでございます、お方さま!」
庭の暗がりから、鋭い声がした。
「ご覧くださいまし、ほら、あそこに男の影が! わたくしの申し上げましたとおりでございましょう! ええ、わたくしはこの目ではっきり見ましたもの! あの人の部屋に男物の蝙蝠が落ちているのを。それをあの人は、姫君の目につかないよう、慌てて隠しましたのよ! あれは絶対に男からもらったものだと思っていました。そのとおりでしたわ!」
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