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おそらく方子は、楓子のところへ忍んできている男はもっと身分の低い、貴族の範疇にも入らない地下人(じげびと)か何かだと思っていたのだろう。こんな渡殿の片隅に住む娘に目をつけるのは、せいぜいそんな木っ端役人か市井の職人くらいだろうと。
それがまさか、自分の娘の婿がねのひとりに数えていた、帝の御覚えもめでたい当代随一の若公達だったとは。
「こ、この――この、泥棒猫ッ!!」
方子は金切り声をあげた。耳を覆いたくなるその声は、娘の峯子にそっくりだった。
「出ておいで、この恩知らず! おまえのような賤しい娘を今まで養ってやった恩も忘れて、よりによってうちの姫の婿がねに手を出すなんて! なんて恥知らずな娘だろう!!」
方子は明衡を押しのけるようにして、楓子の部屋の妻戸を開けた。そして楓子の手を掴み、無理やり外へ引きずり出す。
「おおかた、おまえのほうから文でも送って、色目を使ったのでしょう! 少しばかり歌が上手だからって鼻に掛けて、なんていやらしい! さすがにあの異母妹の娘ね、母親にそっくりですよ!」
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