袖香る少将 四

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楓子はなすすべもなく、簀に引き出された。 「きゃ、あっ! い、痛いっ!」  力任せに引っ張られた腕が折れそうだ。そのまま床板にたたきつけられる。  もう、顔をあげることすらできない。  騒ぎを聞きつけて、四条邸の使用人たちもわらわらと集まってきた。  身分の低い使用人には姿も見せない、声も聞かせないのが貴顕の女性の常だが、方子の頭からはそんな常識も吹っ飛んでしまったらしい。  何事かとこちらを眺める使用人たちに混じって、屋敷の主人である権大納言忠友の姿もあった。が、妻の癇癪が怖いのか、陰に隠れて様子をうかがうばかりだ。  二の姫峯子の姿もある。  彼女は自分の従妹が衆人環視の中で無体な仕打ちを受けるのを、さも面白そうににやにやと笑いながら眺めていた。 「北の方さま、乱暴なお振る舞いはおやめ下さい! 私はどうしても彼女に確かめねばならぬことがあって――」  明衡が止めに入ろうとしても、 「少将どの、あなたもあなたです! うちの峯子に言い寄っておきながら、うかうかとこんな娘に誑かされるなど――!」  激昂した方子はまったく聞く耳を持たなかった。
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