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楓子の背筋が凍りついた。
「や、やめて……!」
声が出ない。
峯子を止めたい。自分の出生の秘密を、少将に知られたくない。
……やめて、お願い。少将さまに――明衡さまにだけは……!!
「ですけどねぇ、お恥ずかしいことに、父親が誰だかわからないんですのよ!」
勝ち誇るように高らかに、峯子は言った。
「この娘は、母親がどこの馬の骨ともわからない男を相手に孕んだ、それは卑しい、恥ずべき娘なんですのよ!!」
……ああ――!!
楓子は袖に顔を埋め、声もなく床に伏した。
父親のわからない娘。恥ずべき娘。今まで何度となくそう罵られてきた。
けれどそのたびに楓子は、心の中で反論してきた。それでもお父さまとお母さまは心から愛し合っていらした。その愛のあかしがわたしなのだと。
けれど今はもう、その信念も出てこない。
……知られたくなかった。この方にだけは、知られたくなかった。
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