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出自は低いが才能ある者として、明衡に注目されるのはけして嫌ではなかった。もしかしたらこれからも、友人として好敵手として、機知にあふれた歌のやりとりを続けていけるかもしれないと思っていた。
けれどこんな形で真実が暴露されてしまっては、明衡も二度と楓子に近づこうとはしないだろう。
……どうして。
お父さまとお母さまが愛し合ったことは、そんなにも罪深いことだったの。子どもの私までがこんな形で罰を受けなければならないほど、許されないことだったの!?
なまじわずかな希望や憧れを抱いてしまったがゆえに、それすら打ち砕かれた絶望は鼓動も止まりそうなほどつらく、深い。
声も出ない。ただ涙だけがあとからあとからあふれて、止まらない。
楓子は床に伏し、ほころびかけた袖に顔をうずめて、身をふるわせるばかりだった。
袿の袖に乱れ散る黒髪を、優しく力強い手がそっとかきあげた。
「顔をおあげください、姫宮さま」
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