418人が本棚に入れています
本棚に追加
負けた気がする 濱田卓
「はぁー」
「卓、朝からため息やめてくんね?」
俺を前職から引き抜いてくれたのは、大学でもお世話になった先輩である、柳 大樹。
その大樹さんに丸めた書類で頭をパコーンと叩かれた。
「あ、すませ~ん」
「ったく、ミスは無いもののやる気あんのか?せっかくヘッドハンティングしてやったんだから成果出せよ」
「うぃー」
パコンッ
今度は強めに叩かれた。
「返事は、はい!だろ」
チラッと大樹さんを見た。先輩ってもイッコ上、それでも就職して荒波にもまれたんだか、ヤケに年上に見える。
ついこの間の哲太もそうだ。
社会人になってどいつもこいつも大人になりやがって。
「はい」
「なんだよ、顔が反抗的だぞ」
「んな事ねーっす」
「いつまでも死んだ魚みてーな目をしてんな、やる気をみせろ」
「ひでえ。いーんすよ、いざという時きらめくんで」
「アホか。んなコトよりコレ、今日中に終わらせろよ」
書類をパサッと置いて行く。
「今回の仕事山、超えたら飲み連れて行ったるから頑張れ」
「焼肉がいーっす」
「成果次第だな」
そう言い放ち大樹さんは自分のデスクに着いた。
スーツがいつもビシッとキマッテて、背が高く、顔もまあまあいい方。女子社員からも人気が有る。
ネクタイをだらし無く緩めた俺とは大違いだ。
女子社員か……
俺、女の人と付き合えるんだろうか。
"俺、後ろも一緒じゃないとイケナイんだよね"
なんて言えるかっつーの!
頭をガシガシ両手で掻く。
一カ月が過ぎても哲太の事ばかり思い出す。
哲太……会いてえ。
「ぐぬうううー!負けた気がする!」
「何唸ってんだ、さっさと仕事しろ」
「う、……はい」
渡された書類に目を通す事にした。
最初のコメントを投稿しよう!