負けた気がする 濱田卓

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負けた気がする 濱田卓

「はぁー」 「卓、朝からため息やめてくんね?」 俺を前職から引き抜いてくれたのは、大学でもお世話になった先輩である、柳 大樹。 その大樹さんに丸めた書類で頭をパコーンと叩かれた。 「あ、すませ~ん」 「ったく、ミスは無いもののやる気あんのか?せっかくヘッドハンティングしてやったんだから成果出せよ」 「うぃー」 パコンッ 今度は強めに叩かれた。 「返事は、はい!だろ」 チラッと大樹さんを見た。先輩ってもイッコ上、それでも就職して荒波にもまれたんだか、ヤケに年上に見える。 ついこの間の哲太もそうだ。 社会人になってどいつもこいつも大人になりやがって。 「はい」 「なんだよ、顔が反抗的だぞ」 「んな事ねーっす」 「いつまでも死んだ魚みてーな目をしてんな、やる気をみせろ」 「ひでえ。いーんすよ、いざという時きらめくんで」 「アホか。んなコトよりコレ、今日中に終わらせろよ」 書類をパサッと置いて行く。 「今回の仕事山、超えたら飲み連れて行ったるから頑張れ」 「焼肉がいーっす」 「成果次第だな」 そう言い放ち大樹さんは自分のデスクに着いた。 スーツがいつもビシッとキマッテて、背が高く、顔もまあまあいい方。女子社員からも人気が有る。 ネクタイをだらし無く緩めた俺とは大違いだ。 女子社員か…… 俺、女の人と付き合えるんだろうか。 "俺、後ろも一緒じゃないとイケナイんだよね" なんて言えるかっつーの! 頭をガシガシ両手で掻く。 一カ月が過ぎても哲太の事ばかり思い出す。 哲太……会いてえ。 「ぐぬうううー!負けた気がする!」 「何唸ってんだ、さっさと仕事しろ」 「う、……はい」 渡された書類に目を通す事にした。
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