3人が本棚に入れています
本棚に追加
迷子になったハルを迎えに行くのは、
いつも、俺の役目だった。
息が詰まるほどに濃密な黒の中を、俺はゆっくりと突き進む。
地面を満たすドロドロとした血の海――暗くてよく見えないくせに、何故か俺にはそれだとわかった――に、何度も足を取られそうになった。
辺りは少し騒がしい。沢山のモノが好き勝手に喚くもんだから、耳障りなくらいだ。ただそいつらがぼんやりと暗闇を照らしてくれるので、ありがたいとも言える。
それに――この空間は、とても居心地が良い。
どれくらい歩いただろうか。闇が少し薄れてきた。それに伴い、奴等の姿と声も消えていく。
代わりに現れてきたのは、レトロチックな街並み。
辺りはすっかり明るくなり、今では薄暗い程度になってしまった。足元の汚らしい血の海も、今では水たまり程度に減っている。視界も足元の状況も断然良くなったが、なんだかとても息苦しい。
でも、ここで引き返す訳にはいかない。
愛すべき弟が待っているのだから。
やがて、それが見えてきた。
大きな道案内の看板が二つ打ち付けられた、不気味な雰囲気を醸し出す分かれ道。
その境目となる場所に――ハルが、佇んでいた。
「ハル」
優しく名前を呼ぶ。
血だまりの中、不安そうに俯いていたハルの顔が上がり、嬉しそうに輝いた。
「冬兄さん!」
やや焦ったようにこちらへ駆けてくる弟を迎え、その頭を撫でてやる。
「良かった、やっと見つけた。探したんだぞ?
大丈夫か? 怖くはなかったか?」
「・・・少しだけ」
はにかみながらハルが言う。
「でも、兄さんなら来てくれるって、信じてたから」
「・・・そうか」
ハルの頭を再度撫でてから、俺はその手を取って、元来た道を戻ることにした。
道案内の看板の、一つ。
黒い矢印が、指し示す方へ。
最初のコメントを投稿しよう!