1.エピローグ 覗き返すもの

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迷子になったハルを迎えに行くのは、 いつも、俺の役目だった。 息が詰まるほどに濃密な黒の中を、俺はゆっくりと突き進む。 地面を満たすドロドロとした血の海――暗くてよく見えないくせに、何故か俺にはそれだとわかった――に、何度も足を取られそうになった。 辺りは少し騒がしい。沢山のモノが好き勝手に喚くもんだから、耳障りなくらいだ。ただそいつらがぼんやりと暗闇を照らしてくれるので、ありがたいとも言える。 それに――この空間は、とても居心地が良い。 どれくらい歩いただろうか。闇が少し薄れてきた。それに伴い、奴等の姿と声も消えていく。 代わりに現れてきたのは、レトロチックな街並み。 辺りはすっかり明るくなり、今では薄暗い程度になってしまった。足元の汚らしい血の海も、今では水たまり程度に減っている。視界も足元の状況も断然良くなったが、なんだかとても息苦しい。 でも、ここで引き返す訳にはいかない。 愛すべき弟が待っているのだから。 やがて、それが見えてきた。 大きな道案内の看板が二つ打ち付けられた、不気味な雰囲気を醸し出す分かれ道。 その境目となる場所に――ハルが、佇んでいた。 「ハル」 優しく名前を呼ぶ。 血だまりの中、不安そうに俯いていたハルの顔が上がり、嬉しそうに輝いた。 「冬兄さん!」 やや焦ったようにこちらへ駆けてくる弟を迎え、その頭を撫でてやる。 「良かった、やっと見つけた。探したんだぞ? 大丈夫か? 怖くはなかったか?」 「・・・少しだけ」 はにかみながらハルが言う。 「でも、兄さんなら来てくれるって、信じてたから」 「・・・そうか」 ハルの頭を再度撫でてから、俺はその手を取って、元来た道を戻ることにした。 道案内の看板の、一つ。 黒い矢印が、指し示す方へ。
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