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血の臭いが強くなる。
闇が濃くなり、足元は再び血の海で覆われた。
俺はもう二度と離さないように、ハルの手をしっかりと握りしめる。
――ハルもまた、強く握り返してくれた。
そうしてまた、俺達の周りに、奴等が現れる。
こちらを怨めしそうに見つめる、子供の影。
ギョロギョロと動く小さな目玉。
狂ったようにゲラゲラと笑うワンピースの女。
静かに佇む顔の××人。
引きちぎられた西洋人形。
姿の見えない、蝉のような悲鳴。
ご馳走を探し求める畜生達。
背後をついてくるナニカ。
肉片を零し続ける長身の女。
三人の赤子にすがりつかれた、憐れな少女。
落ちていく、美しく愛おしい少女。
そして、グチャグチャになった老人の頭。
他にも沢山の怪異が蔓延る中を、俺達二人は、どこまでも歩いていく。
この美しい世界を、歩いていく。
赤子が泣いた。
ワンピースの女が哄笑を上げる。蝉に似た悲鳴が一段と高くなり、長身の女の呟きも大きくなった。愛おしい彼女も何か言ったようだったが、残念ながら聞き取れない。
そうして――光が見えてきた。
俺達が帰るべき世界が見えてきた。
早く帰ろう。愛する兄弟が待っている。
元の場所に帰って、目が覚めたら、またいつもの日常に戻れることだろう。
奴等の盛大なファンファーレの中、俺達二人は、赤黒く光るそれに身を投じた。
――今日もまた、平凡な一日が、始まる。
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