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7.怖い話をしてください ――団栗――
何か怖い話をしてほしい?
へえ、悪趣味だね。まあ良いけど。
俺がまだ小さい頃の話。
ある日俺は、公園でドングリを見つけた。
それは大きく丸々としていて、しかも帽子付きだったもんだから、俺は喜んでそれを拾った。
だけどそれは、すぐさま近所の虐めっ子に奪われてしまった。
そいつは年上で体が大きかったから、奪い返そうにも俺一人じゃ到底敵わない。だから俺は一緒に来ていた冬樹に泣きついたんだけど、冬樹は「あれはダメだ」とかぶりを振った。
その時俺は、「なんで、ふゆにぃなんて大嫌い!」なんて泣き叫んだような気がする。いつもなら助けてくれたはずの兄に拒絶されたことが、余程ショックだったんだと思う。
・・・笑うなよ。俺だってそういう時期はあったんだって。似合わない? うるせぇな。
でも冬樹は何も言わず、ただ少し悲しそうな顔をしていた。
その日の晩のことだ。
近所に救急車が止まったのは。
俺は兄弟と一緒に、野次馬根性で外に出てみた。
驚いたことに、救急車が止まったのは例の虐めっ子の家だった。大人達に混じって様子をうかがっていると、やがて家の中から男と女が出てきた。たぶん、あの虐めっ子の両親だったんだろうな。
続いて、救急隊員が担架を抱えて出てきた。
その上に寝かされた人物に気付いた瞬間、俺は背後から誰かに目を塞がれた。
目を塞いだのは冬樹だった。冬樹は俺に「もう帰ろう」と言った。その声はとても優しかったけど、有無を言わせない感じがして、なんだか凄く怖く感じたのを覚えてる。
けど俺はもう――それを見てしまっていたんだよ。
担架の上に横たわっていたのは、例の虐めっ子だった。
アイツの体な、大量の木の根っこが絡みついていたんだよ。
その後、虐めっ子がどうなったのかはわからない。
虐めっ子の家族は引っ越していったからな。
でも――俺が見たのは一瞬のことだったけど――あれを見た時、子供ながらも、「あれはもうダメだろうな」と悟ったよ。
もしあの時、ドングリを拾っていたら。
俺もきっと、ああなっていたんだろうな。
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