5.あおむしーっ!

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5.あおむしーっ!

母さんから聞いた話だけど、次男には小さい頃変な癖があったらしい。 家のあちこちを指差しては、「あおむしーっ!」と叫んでいたのだという。 当時次男は、青虫を主人公とした某トラウマ製造機の絵本が大好きだった(逆に俺は嫌いだった。あの絵本は怖い上にキモイ)ので、それの影響だろうと母さんは笑っていた。 俺はその話を聞いて、改めて次男の趣味の悪さに引いたものだ。 ある日、大学の友達と都市伝説の話題で盛り上がった。俺は都市伝説くらいなら怖くないし、一緒になって楽しんでいたのだけれど、そこで友達がある都市伝説の話を取り上げた。 それは、海外旅行先でショッピングを楽しんでいた女が、店の更衣室で忽然と姿を消すというもの。 実は更衣室には隠し扉があり、女はそこから連れ出されてしまうのだという。所謂拉致だ。 そして、その女の結末を聞いた時――次男は、うっとりとした口調でこう言ったのだ。 「ああ、青虫だぁ」と。 俺は、その瞬間―― 次男が見ていたのは青虫なんかではなかったということを、悟った。
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