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7.〝二人〟の話
嫌な予感がしたんだ。
怖い夢を見た。
夢の中で、俺は近所にある海の浜辺に居た。
そこには次男の姿もあって、俺はなんとなく声をかけることもせずに、ただボーッと弟を眺めていた。
海は何故か赤かった。血のような色合いのそれは酷くドロドロしていて、潮風も重たく感じた。それを奇妙に思いながら、ふと意識を海の方に向けてみると、そこに異様なものを見つけた。
海の中に、女が立っていた。
有り得ない方向へと首が曲がった、長身の女。
悲鳴の代わりに、ヒュウ、と口から空気が漏れる。
目を閉じてしまいたかったが、どういう訳かそれができない。
そうして、俺が恐怖で固まっていると――女が、次男に向かって手招きをした。
次男は小さく頷いて、海の中に入っていく。
俺はそれを、止めることもできなくて。
弟は最後に振り返ると、少しだけ笑って、海の中に消えていったのだ。
あまりの悪夢に、俺は絶叫しながら飛び起きた。
そうして俺は、ある事実に気付く。
家に、次男の姿が無かったのだ。
俺は走った。
足がもつれて、何度も転びそうになった。
息が切れて、喉の奥が焼けるように痛い。
それでも必死に地面を蹴って、海辺に辿り着いた時、海の中に入ろうとしている弟の姿を見つけた。
脳裏に、あの少し悲しそうな笑顔が過ぎる。
「――冬樹!」
俺は力一杯怒鳴り、最後の力を振り絞って、弟に駆け寄る。そして――
ついに、その腕を、掴んだ。
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