2人が本棚に入れています
本棚に追加
初恋を経験してからというもの、次男は異様に惚れっぽくなってしまった。
少し優しくされれば惚れ、話が合えば惚れ。しかも相手の生死は問わないもんだから、お兄ちゃんとしては心配で仕方が無い。
その日も、「好きな人が出来たんだ」と紹介されたが、残念ながら俺の目には何も見えなかった。
末っ子によると、次男が想いを寄せている女は次男の部屋に住みついていて、夜になると、枕元に立つらしい。
それを、次男はとても楽しみにしているのだ。
俺達兄弟は、次男の恋愛には口を挟まなかった。
俺は不本意ながらも次男の奇行には慣れてるし、三男はこういう時の次男に関わるのを酷く嫌がる。末っ子に至っては、完全に次男の奇行を受け入れてしまっているからだ。
ようするに、誰も止めず、次男の好きなようにさせていたのだ。
しかし、次第に次男の様子がおかしくなった。
あんなに楽しそうに女の話をしていたというのに、最近はあまり口にしなくなったのだ。
それに、何かを考え込んでは、悩ましげに溜め息を吐くことが増えた。
ある日の晩のことだ。
喉の渇きで目が覚めたので、水を飲もうと台所に行ってみると、そこには先客が居た。
「・・・お前、何やってんの?」
小皿に塩を乗せていた次男が、小さく苦笑する。
「ああ、夏樹か。盛り塩を作ってるんだ」
「盛り塩ぉ? 何でまた。お前には必要ねぇだろ」
「俺もそう思ってたんだけどな。もう限界なんだ。最初は良かったよ。楽しかった。でも、段々耐えられなくなってきたんだ」
冗談だろと茶化そうとして、やめた。
次男が追い詰められた顔をしていたからだ。
楽観的に構えていたが、もしかして今回の霊は、相当ヤバイものだったのかもしれない。
この次男が、こんな顔をするなんて。
「でも大丈夫だ。今日、やっと解決策を見つけてな」
顔を顰めたのがバレたんだろう、俺を安心させる為か、明るい口調で小皿の上の塩を固める。
そして、次男は満足気に笑った。
「――これで、安心して眠れる」
最初のコメントを投稿しよう!