1.次男の恋愛譚 ――盛り塩――

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初恋を経験してからというもの、次男は異様に惚れっぽくなってしまった。 少し優しくされれば惚れ、話が合えば惚れ。しかも相手の生死は問わないもんだから、お兄ちゃんとしては心配で仕方が無い。 その日も、「好きな人が出来たんだ」と紹介されたが、残念ながら俺の目には何も見えなかった。 末っ子によると、次男が想いを寄せている女は次男の部屋に住みついていて、夜になると、枕元に立つらしい。 それを、次男はとても楽しみにしているのだ。 俺達兄弟は、次男の恋愛には口を挟まなかった。 俺は不本意ながらも次男の奇行には慣れてるし、三男はこういう時の次男に関わるのを酷く嫌がる。末っ子に至っては、完全に次男の奇行を受け入れてしまっているからだ。 ようするに、誰も止めず、次男の好きなようにさせていたのだ。 しかし、次第に次男の様子がおかしくなった。 あんなに楽しそうに女の話をしていたというのに、最近はあまり口にしなくなったのだ。 それに、何かを考え込んでは、悩ましげに溜め息を吐くことが増えた。 ある日の晩のことだ。 喉の渇きで目が覚めたので、水を飲もうと台所に行ってみると、そこには先客が居た。 「・・・お前、何やってんの?」 小皿に塩を乗せていた次男が、小さく苦笑する。 「ああ、夏樹か。盛り塩を作ってるんだ」 「盛り塩ぉ? 何でまた。お前には必要ねぇだろ」 「俺もそう思ってたんだけどな。もう限界なんだ。最初は良かったよ。楽しかった。でも、段々耐えられなくなってきたんだ」 冗談だろと茶化そうとして、やめた。 次男が追い詰められた顔をしていたからだ。 楽観的に構えていたが、もしかして今回の霊は、相当ヤバイものだったのかもしれない。 この次男が、こんな顔をするなんて。 「でも大丈夫だ。今日、やっと解決策を見つけてな」 顔を顰めたのがバレたんだろう、俺を安心させる為か、明るい口調で小皿の上の塩を固める。 そして、次男は満足気に笑った。 「――これで、安心して眠れる」
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