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4.笑う者
夜、ふと目が覚めた。
眠りが浅い俺は、夜中に何度か目を覚ます。喉の渇きだったり、尿意だったり、原因は様々だが。
けれどその時は、そのどれでも無かった。本当に突然、夢の世界から引きずり出されたのだ。
いつもなら半分寝ぼけているはずなのに、妙に目が冴えてしまっている。
おかしいな、と思いながら目を瞑ると、少年の笑い声が聞こえてきた。
外からではない。
自分の頭の中からだ。
え、と思う間もなく、その声は段々大きくなる。
慌ててそれを止めようとしても、一向に収まってはくれない。
グルグルと回る視界。
笑い声が、ガンガンと頭の中に鳴り響く。
最初は一つだけだったそれは、今では四方八方から浴びせられていた。
いよいよ笑い声が最大音量まで上がったその時、俺は唐突に悟った。
〝来る〟、と。
その瞬間、頭に強い衝撃が走った。
まるで石で殴りつけられたような強烈な痛みに、俺はそのまま、意識を手放した。
◇
結論から言うと、特にその後は何も起きなかった。
ありがちな手形だとか、たんこぶだとか、そういう痕跡は残っていない。
ただ、あれは間違いなく夢ではないな、と思った。
眠い目を擦りながら部屋を出ると、丁度、次男も部屋から出てくる所だった。
「おはよう、冬樹」
「おはよう、夏樹」
次男はまだ半分夢の中に入りながら、ボソボソと返事をした。俺はそれに苦笑しながら、ふと思い立ち、昨晩のことを次男に話してみた。
まさかとは思うが、自分の部屋に“そういうの”が居たら困る。というか泣き叫ぶ。
何より――この弟が原因ということも考えられるからだ。
しかし予想に反して、次男は驚いた顔をした。
どうやら、何も知らなかったらしい。
そして弟は、心底不思議そうな顔で、こう言った。
「何を言っているんだ、夏樹」
「――昨夜笑っていたのは、お前じゃないか」
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