16

5/5
前へ
/394ページ
次へ
『オレね、元カノとやり直すことにしたから』 その言葉に胸が深く抉られた。 瞬時に来る時が来たと思った。 透は動揺したのを知られたくなくて、今日二度目の深呼吸をする。 「そっか。 今度は長く付き合えるといいな」 『うん。だから』「なら翼の恋が上手くいくよーに応援させてよ」 『ええっ!?』 「最後にメシくらい奢らせろよ」 こんな風に諦め悪く少しでも繋がろうとするなんて、透自身思ってもいなかった。 『え、でも……』 「いいだろ? メシくらい。 別に変なことするつもりないし。 お前が不安なら夜じゃなくて昼に会うのでどーよ?」 必死だった。 一度だけでいい。 お前の笑った顔を見せて。 それだけで俺は……。 『いや、でも』 「ホントに何もしねーよ? 俺ヤクザじゃないし、ゲイだから。 ノンケに手なんか出さねーよ」 『ああ、うん。だけど……』 「翼、男なんだろ? こっちが何もしないって言ってんだから、男らしく奢られなよ。 好きなもん、腹一杯食べていいからさ」 『あー分かったよっ!そこまで言わたらしょーがねーから奢られてやるよ。 ただし腹一杯喰ってもオレは割り勘にしないからな? 後で足りませんって言うなよ?』 「よく言った! 好きなだけ食いな。 じゃあ、いつにする?」 翼からOKの返事を引き出し、透は笑顔になった。 ただ掌には、 汗をびっしょりかいていた。
/394ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1045人が本棚に入れています
本棚に追加