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「そうやって黙り込まれても困るんだけど?」
「…………」
「要は本気じゃなかった、って事だよね?」
「そーゆー事じゃなくてさ」
「ならどーゆー事?
こっちは一緒に暮らしたいって言ってるんだけど?」
「だからぁ、こーゆー事はお互いもっと真剣に考えてさ。
答えを出すのはそれからでも遅くないだろ?」
「……分かった。
生涯を共にするならトオルしかいないって思ってたけど、トオルは違うんだね?
……もう……会わないよ」
「そんな事言ってねーだろ?」
「言ってんのと変わらないよ?
結局目の前の問題から逃げてるんだから。
こういう事でお互い時間を無駄にすることはもうやめよう?
……じゃ、さようなら!」
相手はそう言うとカウンターの椅子からサッと立ち上がり、早歩きでバーのドアまで行くと、こちらを見ることもなく出ていった。
溜め息が漏れていった。
少しの苛立ちと大いなる安堵を込めて。
「トオルさん、大変でしたね」
マスターが笑っている。
「まぁ、しょうがないっしょ?
答えを出せない俺も悪いんだから。
あ、チェックで」
「もう帰るんですか?
もっとゆっくりしていけばいいのに。
案外次の出会いがあるかもしれませんよ?」
「今夜はもういいよ。疲れたから」
「畏まりました」
マスターにはそう言ったものの、本音はまだまだ飲み足りなかった。
だからこの後飲み直すことに決めていた。
それも気取った店じゃない方がいい。
あ、駅前にチェーンの居酒屋あったよな?
よし、そこ行こ!
金井 透はバーを出ると颯爽とした足取りで駅へと向かった。
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