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透は飲んだ。
好きなだけ飲んだ。
枝豆にホッケ、焼鳥をツマミに
俺は自由だーっ!
と自分に乾杯して浮かれ気分で飲んでいたが、ビール、焼酎と飲み進めるうちに思い出すのは、別れた恋人と過ごした甘い時間ばかりだった。
映画を観に行ったときは互いの手を握って座っていた。
お互いの部屋でご飯を食べたときは、人目がないのをいいことに「あ~ん」とやっていた。
一緒にベッドに入れば、隣で眠っている恋人の寝顔を飽きずに見つめていたこともあったし、「おはよう」の後のキスは当たり前だった。
いつから気持ちがズレ始めたんだろう?
考えてみたがハッキリとした理由が思い当たらない。
ただ初めて相手から「一緒に暮らしたい」と言われたときに、嬉しいと思うより戸惑いの方が大きかった。
さよなら、か……。
透の右隣に座った学生らしきカップルが「そんなこと言って」「だって好きなんだもん」とイチャついている。
一つあけた左の席では「ダメ?」「えーっ……いいよ」と若いカップルが手を重ねあって意味深な含み笑いをしている。
何だよ、これ?
ったくどいつもこいつも幸せそうにしやがって!
ちっとも…………羨ましーぞ!
いや全然…………やっぱ羨ましーっ!!
透は店員を呼ぶと冷酒を追加した。
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