プロローグ

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   今日、私は職を失った。  所謂リストラというものだろうか。  社員6名という小さな設備会社で事務職に就いていたけれど、大きな取引先から契約を切られたとかで……事務は身内で出来ると言われ、退職金の入った分厚い茶封筒を握らされた。  少し前から一緒に暮らしている、運命的な出会いをした芳樹(よしき)との結婚式が1ヶ月後に控えていた。  その芳樹は今日は仕事が休みでまだ寝ているであろうから、朝から会社を追い出された私は今後のことを話し合おうと、芳樹のいる部屋へ帰った。  だけど、主婦が暇つぶしに観る昼ドラのワンシーンのような……こんな場面に出くわすなんて思ってもみなかった。  何ヶ月もかけて探してようやく見つけた、2人が気に入った2DKの小さなアパート。生活は慎ましくても、眠りは重要だからベッドは妥協しないで決めようと、少し奮発して買ったダブルベッド。  そのベッドを軋ませながら、知らない女性と芳樹の情事……。  一緒に裸で寝ていた、なんて生易しい現場じゃない。  部屋に入った途端、その真っ最中の2人を目撃してしまったのだ。  ありふれたドラマのように、私の手からハンドバッグが落ちて床に転がり、驚いて振り向いた芳樹と目が合った。
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